製造業の労災保険給付について知っておくべきことについて弁護士が解説

労災が多い業種として製造業があります。

会社にもよるのですが、大型機械を操作して製品を作る、フォークリフト等で重いものを運ぶという作業がある関係上、どうしても怪我をすることが多い環境にあるのが製造業です。

このページでは、製造業における労災保険給付について知っておくべきことについて弁護士が解説します。

製造業における労災にはどのような特徴があるか

製造業における労災にはどのような特徴があるのかを確認しましょう。

全業種の中でもっとも件数が多い

製造業における労災の特徴として最初に挙げられるのが、その件数の多さです。
まずは、令和4年経済産業省が出している労働災害発生状況について確認しましょう。

全産業 132,355件
製造業 26,694件
建設業 14,539件
陸上貨物運送事業 16,580件

「令和4年 労働災害発生状況(経済産業省)」より

このように、全産業の約20%が製造業で発生しており、建設機械や不安定な足場での作業をする建設業や、
常時トラックなどを運転する・トラックなどが行き交う現場で作業をする陸上貨物運送事業よりも多い数字になっています。

その原因としては、製造業では製品を加工する際に機械を使うことが多いため、
製造業の労災事故の中で約25%にあたる7,159件が、
機械に挟まれる・巻き込まれることが原因となっていることがあげられます。

大きな怪我や休業に繋がりやすい

製造業の事故は大きな怪我や休業に繋がりやすいです。

プレス機などの大型機械はもとより、商品や製品の袋を斬るカッター(刃)や、コンベアのチェーンなどの
人体に触れたら危険な機械が多いため、事故が起こると大きな怪我をすることが多いと言えます。

その結果、怪我が治らず労務不能により退職となってしまうことも珍しくないのが製造業の労災です。

製造業で労災に被災した場合の補償にはどのようなものがあるか

製造業で労災に被災した場合、どのような補償があるのでしょうか。

労災保険給付

仕事中の怪我に対しては労災保険給付が受けられます。

仕事中の事故による怪我・仕事が原因で発生した傷病・通勤中の事故による怪我については
労災保険による給付を受けることができます。

怪我や病気についての治療費、4日以上休業した場合の休業保障、
後遺障害が残った場合は障害補償給付を受けることができるようになります。

会社に対して損害賠償が可能な場合

仕事中の怪我については労災保険給付を受けられることを知っている人が多いのですが、
労災給付以外に会社に対して損害賠償ができる場合もあります。

会社は労働者に対して生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、
必要な配慮をする義務を負っています(安全配慮義務:労働契約法5条)。

例えば、機械が壊れそうになっているにもかかわらず修理をせずに使っていて労働者が怪我をしたような場合や
危険な状態を放置していた場合はもとより、適切な利用をしていても
安全配慮のための設備の設置を怠っていたような場合には、会社は安全配慮義務に違反していることになります。

安全配慮義務違反で労働者が怪我をした場合には、
会社は労働者に対して安全配慮義務違反に基づいて損害賠償をする義務があります。

同じ場所で作業をしていた作業員への責任追及が可能な場合

・同僚が機械の操作を誤ったことにより、機械に巻き込まれた。
・フォークリフトに轢かれた。

このように、同じ場所で作業をしていた作業員の行為(過失)によって事故が起きた場合、
民法709条に基づく不法行為損害賠償が可能です。

そして、その作業員を雇用している会社に対しても民法715条の使用者責任に基づいて
損害賠償をすることが可能となっています。

製造業の労災保険給付にあたって問題となるもの

製造業の労災保険給付にあたってよく問題となるものが次の3点です。

後遺障害等級認定

製造業の労災保険給付で問題になるのが、後遺障害等級認定です。

労災に被災したことが原因で後遺症が残ることがあります。
治らずに残ってしまった症状に応じて等級に分けて認定をして、その等級に応じて障害補償給付が行われます。

機械を使った作業のミスで怪我をすることが多い製造業においては次のような後遺障害等級の認定がされることがあります
(製造業の事故の場合で認定される代表的な等級を掲載しております。これ以外の等級が認定されないというわけではございません)。

 

等級 内容
1級 6. 両上肢をひじ関節以上で失ったもの

7. 両上肢の用を全廃したもの

8. 両下をひざ関節以上で失ったもの

9. 両下肢の用を全廃したもの

2級 3. 両上肢を手関節以上で失ったもの

4. 両下肢を足関節以上で失ったもの

3級 5.両手の手指の全部を失ったもの
4級 4. 1上肢をひじ関節以上で失ったもの

5. 1下肢をひざ関節以上で失ったもの

6. 両手の手指の全部の用を廃したもの

7. 両足をリスフラン関節以上で失ったもの

5級 2. 1上肢を手関節以上で失ったもの

3. 1下肢を足関節以上で失ったもの

4. 1上肢の用を全廃したもの

5. 1下肢の用を全廃したもの

6. 両足の足指の全部を失ったもの

6級 5. 1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの

6. 1下肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの

7. 1手の5の手指又は母指を含み4の手指を失ったもの

7級 6. 1手の母指を含み3の手指又は母指以外の4の手指を失ったもの

7. 1手の5の手指又は母指を含み4の手指の用を廃したもの

8. 1足をリスフラン関節以上で失ったもの

9. 1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの

10. 1下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの

11. 両足の足指の全部の用を廃したもの

8級 5. 1下肢を5センチメートル以上短縮したもの

6. 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの

7. 1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの

8. 1上肢に偽関節を残すもの

9. 1下肢に偽関節を残すもの

10. 1足の足指の全部を失ったもの

9級 8. 1手の母指又は母指以外の2の手指を失ったもの

9. 1手の母指を含み2の手指又は母指以外の3の手指の用を廃したもの

10. 1足の第1の足指を含み2以上の足指を失ったもの

11. 1足の足指の全部の用を廃したもの

10級 6. 1手の母指又は母指以外の2の手指の用を廃したもの

7. 1下肢を3センチメートル以上短縮したもの

8. 1足の第1の足指又は外の4の足指を失ったもの

9. 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの

10. 1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの

11級 6. 1手の示指、中指又は環指を失ったもの

8. 1足の第1の足指を含み2以上の足指の用を廃したもの

12級 6. 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの

7. 1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの

8. 長管骨に変形を残すもの

8-2. 1手の小指を失ったもの

9. 1手の示指、中指又は環指の用を廃したもの

10. 1足の第2の足指を失ったもの、第2の足指を含み2の足指を失ったもの又は第3の足指以下の3の足指を失ったもの

11. 1足の第1の足指又は他の4の足指の用を廃したもの

12. 局部にがん固な神経症状を残すもの

14.外貌に醜状を残すもの

13級 4. 1手の小指の用を廃したもの

5. 1手の母指の指骨の一部を失ったもの

8. 1下肢を1センチメートル以上短縮したもの

9. 1足の第3の足指以下の1又は2の足指を失ったもの

10. 1足の第2の足指の用を廃したもの、第2の足指を含み2の足指の用を廃したもの又は第3の足指以下の3の足指の用を廃したもの

14級 6. 1手の母指以外の手指の指骨の一部を失ったもの

7. 1手の母指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの

8. 1足の第3の足指以下の1又は2の足指の用を廃したもの

9. 局部に神経症状を残すもの

例えば、機械に挟まれた結果、両方の上肢をひじ関節以上で失った場合には、1級に該当します。

製造業における労災で後遺症が残る場合、手や足に怪我をしてその一部を失う・用廃するといった事例が多く、
このような「喪失」の場合であれば認定で争いになることはあまりありません。

しかし、機械に挟まれて痛みや痺れが残った場合で、12級の「局部にがん固な神経症状を残すもの」にあたるのか、
14級の「局部に神経症状を残すもの」にあたるのか、明確に分けるのが難しく、14級が認定されてしまうこともあります。

また、いかなる場合に「関節の機能に障害を残す」や「指の用を廃した」といえるのかは、
後遺障害の認定に関する専門的な知識が必要です。

後遺症が残った場合で後遺障害等級の申請をしなければならない場合、弁護士に依頼することをお勧めします。

怪我が重いと会社への損害賠償金額が高くなる可能性が高い

次に、怪我が重い場合には会社への損害賠償額が高くなる可能性があります
(会社に安全配慮義務違反があることが前提です)。

例えば、機械に腕を挟まれて、1ヶ月会社を休んだとします。

この場合、労災保険からは、療養補償給付(治療費)と休業補償給付を受けることができます。

ただし、休業補償給付で補填されるのは、標準給与日額の60%で(+特別休業支援金として20%の支払いもある)、
かつ休業3日目までは待機期間として給付がありません。

会社に安全配慮義務違反がある場合、会社に1日目から3日目までの休業補償給付が支給されない分と、
標準給与日額の40%について、会社に対して休業補償として請求することができます。

また上述のように障害等級(後遺障害)の認定を受けた場合、
労災から支給される障害補償給付では到底損害を賄えないことが多いので、
逸失利益や後遺障害慰謝料や将来の介護費用等について、会社に対して損害賠償請求をすることが可能です。

労災隠しに注意が必要

労災隠しに注意が必要です。

慢性的な人手不足に悩まされる製造業では、派遣社員を迎え入れて仕事を行なっていることが多いです。

派遣社員が労災に被災した場合、派遣先会社から派遣元会社に対して労災申請をしないように依頼をすることや、
派遣元会社が派遣先会社に気を使った結果、労災隠しをしようとすることがあります。

「労災は正社員のみ」「派遣社員だから労災は受けられない」「怪我の程度が軽いので労災は下りない」などの理由によって
労災隠しをしようとしている場合には、お近くの労働基準監督署か弁護士に相談することをお勧めします。

労災申請の流れ

労災申請の基本的な流れについては次の通りです。

労災保険の請求書を取得する

労災の手続は、通常は会社が行ってくれます。

もし、会社が何らかの理由で労災の手続を取ってくれない場合は、以下をご覧ください。

労災保険の請求は書面で行うので、まず請求書を取得します。

労働基準監督署で手に入れることができますし、厚生労働省のホームページでもダウンロードが可能です。

主要様式ダウンロードコーナー (労災保険給付関係主要様式)|厚生労働省(URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousaihoken.html)

労働災害と通勤災害、派遣会社である場合で取得すべき書類が異なるので注意をしてください。

申請書には事業主証明・医師による証明をそれぞれしてもらう必要があります。

もし、会社が事業主証明を作成しない場合は、事業主証明は空白のままで提出してください。

申請書を労働基準監督署に提出する

請求書を作成したら、会社の所在地を管轄する労働基準監督署に提出します。

労働基準監督署が調査をして認定する

労働基準監督署が労災適用事案かどうかを調査を行います。

調査の結果、認定がされると労災保険給付が支払われます。

労災に被災した場合には弁護士に相談を

労災に被災した場合で会社が労災申請をしない場合、まずは労働基準監督署にご相談ください。労働基準監督署に相談しても解決しない場合は弁護士に相談することをお勧めします。

請求できる内容がわかる

上述したように労災保険給付のほかに、会社や第三者に対して損害賠償請求ができるケースがあります。

弁護士に相談すると、これらの要件を満たすかどうかを判断してもらい、どのような請求ができるのかがわかるようになります。

後遺障害等級の認定のサポートができる

弁護士に依頼すれば、後遺障害等級認定のサポートができます。

上述したように、後遺症が残る場合には、障害補償給付の申請ができるのですが、
認定された後遺障害等級によって補償金額が大きく変わってきます。

弁護士に依頼すれば、適切な等級の認定をしてもらえるように、適切な検査をしてもらうなどして、
後遺障害等級認定を受けやすいようにサポートします。

会社との交渉や裁判などを任せることができる

弁護士に依頼することで、会社との交渉や裁判などを任せることができます。
会社に安全配慮義務違反があるにもかかわらず損害賠償に応じないような場合、会社と交渉をする必要があります。

また会社がどうしても応じない場合には、裁判をする必要があります。
弁護士に依頼すればこれらを任せることができます。

まとめ

このページでは、製造業における労災請求を中心にお伝えしました。

機械を使った業務が多い製造業は、非常に多くの労災が発生します。
長期間仕事を休まなければならない、後遺症が残るなどの場合、労災だけでは適切な救済を受けられない可能性もあります。

弁護士に相談をして、どのような請求が可能かをきちんと確認することをお勧めします。

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