下請け労働者の労災事故について弁護士が解説
建設現場や製造業の現場で働く下請け労働者は、元請会社の労働者に比べて労災事故に遭うリスクが高いことが統計上明らかになっています。
しかし、「労災申請をすると元請けから仕事を切られるのではないか」という不安から、労災申請をためらってしまう下請け労働者の方も少なくありません。
本記事では、下請け労働者の労災事故の現状と、労災申請の権利、そして弁護士に相談するメリットについて解説します。
下請け現場で起こっている労災の現状
まず、下請け労働者が置かれている労災の現状を、統計データから確認しましょう。
建設業は死亡事故が最も多い業種
厚生労働省が公表した令和5年の労働災害発生状況によると、労働災害による死傷者数(休業4日以上)は全産業で135,371人にのぼります。このうち建設業は14,414人で、製造業(27,194人)に次いで多い水準です。
さらに深刻なのは死亡者数です。令和5年の建設業の死亡者数は223人で、全産業の中で最も多くなっています。死亡事故の型別で最も多いのは「墜落・転落」で、これは高所作業が多い建設現場の特徴を反映しています。
参考:令和5年労働災害発生状況の分析等|厚生労働省(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/001099504.pdf)
下請け労働者の方が災害発生率が高い
厚生労働省が公表した製造業に関する調査結果によると、元方事業者(元請け)の年千人率が5.09であるのに対し、関係請負人(下請け)の年千人率は11.32と、下請け労働者の災害発生率は元請けの2倍以上にのぼることが報告されています。
参考:製造業における元方事業者による総合的な安全衛生管理のための指針に関する検討会報告書|厚生労働省(URL:https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/120424-04.pdf)
下請け段階で事故が集中している実態
宮城県が公表した令和6年度県工事事故防止対策事業計画では、令和5年の県発注工事における労働災害死傷者16人の施工体系別の内訳が公開されています。これによると、元請けの事故が1人であるのに対し、1次下請が7人、2次下請が5人、3次下請が2人(うち1人が死亡)となっており、下請け業者による事故が圧倒的に多いことがわかります。
参考:令和6年度県工事事故防止対策事業計画|宮城県(URL:https://www.pref.miyagi.jp/documents/51447/reiwa6nennkennkoujijikoboushitaisakujigyoukeikaku.pdf)
小規模事業場に事故が集中
下請け・孫請けの企業は従業員数が少ない中小零細企業であることが多いですが、労働安全衛生総合研究所の報告によると、2020年の全産業の死傷災害は、労働者数50人未満の中小規模事業場で約60%を占めています。また、製造業における事業場規模別の死傷年千人率を見ると、労働者数1~9人の事業場は3.72で、300人以上の事業場(1.09)の約3~4倍にのぼります。
規模の小さい下請け・孫請け事業場ほど安全管理体制が不十分になりやすく、結果として事故が集中しやすいといえます。
参考:中小企業における労働災害防止の推進と労働安全衛生法|厚生労働科学研究成果データベース(URL:https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202201015A-buntan29.pdf)
下請け労働者に労災事故が多い理由
なぜ下請け労働者に労災事故が集中するのか、その主な理由を見ていきましょう。
危険な作業を担当する割合が高い
建設現場では、元請会社が工事全体の管理・監督を行い、実際の作業の多くは下請け・孫請けの労働者が担います。特に、高所作業や解体作業、重量物の取り扱いなど、危険を伴う作業を下請け労働者が直接行うケースが多くなります。
製造業でも同様に、機械の近くでの作業や清掃作業など、「はさまれ・巻き込まれ」のリスクが高い工程を下請け労働者が担当する傾向があります。
安全教育や安全管理体制が不十分になりやすい
下請け・孫請けの企業は、経営規模が小さいために安全管理に専任の担当者を置く余裕がないことが多くあります。
リスクアセスメント(職場の危険を事前に洗い出す取り組み)の導入率を見ても、事業場規模1,000人以上では86.6%であるのに対し、30~49人の事業場では36.5%、10~29人の事業場では29.7%にとどまるという調査結果があります。安全に対する取り組みの格差が、事故の発生率の差に直結しているのです。
元請けと下請けの間で安全情報が共有されにくい
建設現場では、元請け・1次下請け・2次下請け・3次下請けと多重の請負構造になることがあります。この場合、元請けが持っている安全管理に関する情報や指示が、末端の下請け労働者まで十分に伝わらないことがあります。
厚生労働省の報告書でも、元方事業者と関係請負人の間で必要な連絡調整が行われていなかったことが、災害発生の原因となった事例が複数報告されています。
労災申請をためらってしまう下請け労働者の悩み
下請けの労働者やその雇用先の会社が労災申請をためらうケースがあります。その背景にはいくつかの特有の事情があります。
「元請けから仕事を切られるのではないか」という不安
下請け労働者やその会社が最も心配するのは、労災申請をすることで元請けとの取引関係に悪影響が出るのではないかという点です。「事故を報告したら次の仕事がもらえなくなるのではないか」「元請けに迷惑をかけると取引を打ち切られるのではないか」という懸念から、労災を申請せずに泣き寝入りしてしまうことがあります。
労災申請は労働者の権利であること
しかし、労災申請は法律で保障された労働者の権利です。労働者災害補償保険法に基づき、業務上の事由によって負傷した労働者は、雇用先の規模に関係なく、労災保険の給付を受けることができます。
会社が労災申請に協力しない場合でも、労働者自身が労働基準監督署に直接申請することが可能です。
元請けが取引を打ち切ることの問題
仮に、下請けが労災申請をしたことを理由に元請けが取引を打ち切った場合、それは独占禁止法上の優越的地位の濫用や、下請法違反に該当する可能性があります。
労災申請は法律上の正当な権利行使であり、それを理由とする不利益な取り扱いは許されません。
労災隠しは犯罪であること
一方、労災が発生したにも関わらず労働基準監督署に報告しないこと(いわゆる「労災隠し」)は、労働安全衛生法第100条・第120条に違反する犯罪行為です。元請けや下請けの会社が労災を隠すよう求めてきた場合には、毅然と対応する必要があります。
下請け労働者が損害賠償請求できるケース
労災保険の給付は、治療費や休業補償など最低限の補償を提供するものですが、慰謝料は支給されません。そのため、労災保険だけでは補いきれない損害について、会社に対して損害賠償を請求できる場合があります。
雇用先の下請会社に対する損害賠償請求
雇用先である下請会社が安全配慮義務(労働契約法5条)に違反して労働者に怪我をさせた場合、下請会社に対して損害賠償を請求できます。
たとえば、必要な安全教育を実施していなかった、保護具を支給していなかった、危険な作業方法を放置していた、といったケースがこれに当たります。
元請会社に対する損害賠償請求
下請け労働者と元請会社との間には直接の雇用契約はありません。しかし、判例上、元請会社と下請け労働者との間に「特別な社会的接触の関係」がある場合には、元請会社も安全配慮義務を負うとされています(最高裁昭和50年2月25日判決)。
また、建設業の元請会社は「元方事業者」として、労働安全衛生法第29条に基づき、下請けの労働者が法令に違反しないよう必要な指導・指示を行う義務を負っています。さらに、建設業の元請会社が「特定元方事業者」に該当する場合には、労働安全衛生法第15条等に基づく統括安全衛生管理の義務も課されます。
これらの義務に違反した場合、元請会社に対して安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求が認められることがあります。
下請け会社は経営規模が小さく資力が十分でないことも多いため、元請会社に対しても損害賠償請求を検討することは、適正な補償を受けるために重要なポイントです。
弁護士へ相談するメリット
下請け労働者が労災事故に遭った場合、弁護士に早い段階から相談することには大きなメリットがあります。
労災申請のサポートを受けられる
会社が労災申請に協力してくれない場合や、労災隠しをされそうな場合でも、弁護士のサポートのもとで適切に労災申請を進めることができます。
特に建設現場では、元請け・下請けの関係が複雑で、どの会社の労災保険を使うのか(建設業では元請会社が加入する労災保険から給付を受けます)、事業主証明をどこに求めるのかなど、手続き面で悩むことが多くあります。弁護士に相談することで、こうした問題をスムーズに解決できます。
後遺障害が残った場合に適切な等級認定をサポート
事故の結果、後遺障害が残った場合には、障害等級の認定が補償額に大きく影響します。
弁護士は、適切な障害等級認定を受けるために、主治医への働きかけ(必要な検査の実施や診断書の記載内容に関する助言)などのサポートを行うことが可能です。
元請会社を含めた損害賠償請求の見通しが立つ
下請け労働者の場合、雇用先の下請会社だけでなく、元請会社に対しても損害賠償を請求できる可能性があります。しかし、元請会社に安全配慮義務違反があったかどうかの判断や、具体的な損害額の算定には専門的な法律知識が必要です。
弁護士に相談することで、誰に対してどのような請求が可能かを早い段階で見極めることができ、適切な方針を立てることができます。
会社との交渉や裁判を任せられる
下請け労働者が個人で元請会社や下請会社と交渉するのは、力関係の面で大きな不利を伴います。弁護士に依頼すれば、交渉から裁判に至るまで、労働者の利益を守るための主張・立証を一貫して行うことができます。
当事務所のサポート内容
神戸ライズ法律事務所では、建設現場や製造業をはじめとする労災事故について多くのご相談をお受けしてきました。
下請け労働者の方が抱える特有のお悩み──労災申請への不安、元請けとの関係への配慮、会社が非協力的なケース──にも丁寧に対応いたします。
当事務所でお手伝いできること
・労災申請の手続きサポート
・後遺障害の等級認定に向けた助言と支援
・雇用先の下請会社・元請会社に対する損害賠償請求
・示談交渉から裁判対応まで一貫したサポート
労災事故に遭われた方やそのご家族の方は、お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。当事務所では、労災に関するご相談を無料で承っております。
まとめ
下請け労働者は、元請けの労働者に比べて労災事故に遭うリスクが高い立場にあります。統計的にも、下請けの災害発生率は元請けの2倍以上であり、小規模事業場に事故が集中する傾向があります。
「労災申請をすると仕事がもらえなくなる」という不安を感じる方もいらっしゃいますが、労災申請は法律で保障された労働者の権利です。これを理由に不利益を与えることは許されません。
下請け労働者が労災に被災した場合、労災保険の給付に加えて、雇用先の下請会社や元請会社に対して損害賠償を請求できる可能性があります。特に重い後遺障害が残るケースでは、労災保険の給付だけでは十分な補償とはならないことが多いため、損害賠償請求を検討することが重要です。
適正な補償を受けるためには、早い段階から弁護士に相談しておくことをお勧めします。












