建設現場における労災事故について

建設業は、労災が起こりやすい業種です。

高所や足場の不安定なところでの作業が多く、重機や危険な機械を使用しますし、
重いものを持ち運びすることも多々あるからです。

建設業については現場ごとに元請け会社の労災に加入するという
特殊な取り扱いとなっており非常に特殊であることも相まって、労災に被災した場合には
知っておくべき様々な法的問題があります。

本記事では、建設現場における労災事故について知っておくべきことをお伝えします。

建設現場における労災と労災保険の特徴

建設現場における労災と、労災保険の特徴について知っておきましょう。

建設現場の労災は重大事故の割合が高い

建設現場は上述した通り、高所や足場の不安定なところでの作業・重機や危険な機械を使用すること・重いものを持ち運びすること、といった労災が発生しやすい環境にあります。

厚生労働省が発表した令和4年の労働災害発生状況によりますと、
労働災害による休業4日以上の死傷者数132,355人のうち、14,539人を建設業が占めており、
製造業、陸上運送業、小売業に次いで4番目の数になります。

また、高所からの転落や墜落という重大な事故につながる危険が最も多いため、
令和4年における労災死者774名のうち、281人が建設業を占めており、全業種の中で最も多い数字になっています。

このように建設現場で発生する労災は死亡事故や重大な怪我に繋がりやすいという特徴があります。

労災加入は元請会社が行う

通常の労働者は、雇用されている会社が労災保険に加入することになっています。

しかし、建設現場では元請会社がたくさんの下請会社・孫請会社を利用して、工事を完成させます。

そのため、建設現場では、一つの建設現場を事業とみなして、
元請会社が下請会社の社員についても労災に加入することになっています。

建設現場で労災事故が起きたときに問題になること

以上のような特徴を持つ建設現場で労災事故が起きたときに問題になることがあります。

思った通りの障害補償等給付が受けられない

建設現場の労災事故で問題となることの一つに、思った通りの障害補償等給付が受けられないケースがあることです。

たとえば、次のような労災申請の事例があります。

平成26年12月29日、資材倉庫内にて翌日の工事(クーラーの冷温水機の入替作業)の施工準備作業をしていた。
午後6時30分頃、雪よけ用のシートを棚から引き降ろそうとしたところ、
シートの上に置いていた工具箱が2箱続けざまに頭部に落下した。
被災時はヘルメットを着用していたが頭部が後方にのけぞってしまった為、首に負荷がかかって負傷した。
しばらく様子を見ていたが翌日になっても痛みが引かず救急車で病院に搬送された。

引用:労災事例/平成26年12月29日/大阪府 【一人親方労災保険の特別加入】|一人親方労災保険組合ホームページ(URL:https://rousai-hoken.jp/1157

高いところから落ちる・高いところにある物が落ちてくる、というときに首に負荷がかかってむちうちになることがあります。

むちうちは重症になると痛みやしびれ、吐き気やめまいといった症状が取れなくなってしまい、後遺症が残ることがあります。

この場合、障害等級認定の申請をすることで、障害等級の認定を受けると、障害補償等給付を受けることができます。

むちうちについては、重いものである場合には第12級の12「局部にがん固な神経症状を残すもの」として認定され、
軽いものである場合には第14級の9「局部に神経症状を残すもの」として認定されます。

ただ、しびれや痛みがある、吐き気やめまいといった症状は主観的なものであり、
たとえば手足や指を失ったというようなケースに比べて客観的な症状よりも認定がしづらいです。

重症な方ですと歩行障害や手足の巧緻障害(上手に動かせない)になる方もいらっしゃいます。
このような方は実は中心性脊髄損傷になっている可能性がありますが、医師によって見逃されている可能性も否定できません。

そのため、思った通りの障害等級認定が受けられないことがあります。

労災隠しが行われることが多い

建設現場においては下請会社や派遣会社などを使って人員を集めて工事を行います。

労災は親会社が加入することになっているのですが、たとえば子会社の社員・派遣会社の社員が労災に被災した際に、
労災隠しが行われることがよくあります。

これは、親会社が手続きの煩雑さや、労基からの処分を受けることを嫌がるためです。

たとえば、2022年7月19日に安芸労働基準監督署が、
法人としての轟組と同社社員2人を労働安全衛生法(安衛法)違反の疑いで高知地検に書類送検した事例では、
下請会社の社員が労災に被災したにも関わらず労災隠しを行なったことが原因のものです。

労災隠しは、元請会社が子会社・派遣元会社に対して指示することもあれば、子会社・派遣元会社が自主的に行うことがあります。

重大な事になっているにも関わらず見舞金程度で終わらせようとすることもあるので、適切な対処が必要です。

会社や元請会社に損害賠償請求ができるケースがある

会社や元請会社に損害賠償請求ができるケースがあります。

会社は、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、
必要な配慮をする義務を負っています(労働契約法5条:安全配慮義務)。

これに違反して従業員に怪我をさせた場合には、安全配慮義務違反を主張して会社に損害賠償の請求ができます。

また、この安全配慮義務は、「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触関係に入った当事者間において、
当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務」として、
契約関係にない当事者にも課せられています(最高裁昭和50年2月25日判決:陸上自衛隊事件)。

建設業の元請会社は「特定元方事業者」として労働安全衛生法・労働安全衛生規則に基づいて数々の責務を負っています。

そのため、ケースバイケースではありますが、元請会社と下請会社の従業員との間に「特別な社会的接触関係がある」
と認定された場合は、元請会社に対して安全配慮義務違反を主張して損害賠償請求をすることができる場合もあります。

また、元請会社の従業員の過失によって怪我をした場合には、元請会社に対し、
民法715条の使用者責任に基づいて損害賠償請求を行うことが可能です。

元請会社に対して損害賠償ができるかどうかについては弁護士に相談してください。

 

労災保険の給付を受ける流れ

労災保険の給付を受ける流れを確認しましょう。

労災保険の請求書を取得する

労災の手続は、通常は元請会社が行ってくれます。

もし、元請会社が何らかの理由で労災の手続を取ってくれない場合は、以下をご覧ください。

まず労災保険の請求書を取得します。

労働基準監督署で入手できるほか、労災保険の請求書は下記ページでダウンロードが可能です。

主要様式ダウンロードコーナー (労災保険給付関係主要様式)|厚生労働省(URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousaihoken.html)

通勤災害である場合・派遣会社から建設現場に派遣された場合で書類が異なるので注意をしましょう。

請求書を作成して労働基準監督署長宛てに提出する

請求書に所定の事項を記入した上で、事業主証明と医師の証明をもらい、労働基準監督署に提出をします。

建設現場の場合の事業主証明は元請会社に記載してもらいます。

提出が困難な事情がある場合には、会社が助力する義務もあり、会社が労働者に代わって行ってくれる場合もあります。

労働基準監督署が調査の上で認定し給付される

労働基準監督署が提出された申請書をもとに労災適用について調査を行います。

労災と認定されると各種の給付を受けることができます。

労災に被災した場合には弁護士に相談することをお勧め

労災に被災したにもかかわらず元請会社や会社が労災申請をしない場合、まずは労働基準監督署にご相談ください。労働基準監督署で解決しない場合は弁護士に相談することをお勧めします。

その理由は次の通りです。

労災に該当するか・損害賠償ができるかの判断ができる

労災に該当するか、損害賠償ができるかの判断ができます。

労災隠しが行われる場合、会社や元請会社は労働者に様々な説得を行います。

昨今では、顧問をしている社会保険労務士が労災隠しで検挙されている事例も報道されています。

参考:労災かくし送検 社労士が虚偽報告を幇助 顧問先指示にて作成
堺労基署|労働新聞社(URL:https://www.rodo.co.jp/news/167188/

労災隠しが行われる場合には、専門家が関与しているようなケースもあることを前提に、労災に該当するか、および上述した損害賠償請求ができないかを弁護士に相談して確認するのが良いでしょう。

障害が残る場合には有利な障害等級認定に導いてくれる

後遺障害が残る場合には、適切な後遺障害が認定されるように弁護士が専門的知識を元にサポートすることが可能です。

上述したむちうちや中心性脊髄損傷のように、客観的には認定しづらいケースがあります。

このような場合に、適切な障害等級認定をしてもらうためには、診断書への記載事項を工夫したり、
適切な検査を行なってもらうなどの働きかけが必要です。

医師は治療に関しての専門家であるものの、後遺障害等級認定の専門家ではないため、どのような検査をしておけば、後遺障害等級認定が認められやすいかなどまで把握していないことがあります。

弁護士は後遺障害等級認定もきちんと把握しているため、適切な障害等級認定を受けるように手続きを進めることができます。

まとめ

本記事では、建設現場における労災事故についてお伝えしました。

建設現場での労災事故は重大な事故につながりやすく、
休業中の生活保障や障害が残った場合のその後の生活費という観点から、労災保険給付が重大な意味を持ちます。

労災隠しをされないようにしたり、適切な障害等級認定を得るためには、
早い段階から弁護士に相談しておくことをお勧めします。

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