プレス機による挟まれ・巻き込まれ事故の損害賠償

製造現場をはじめとする労働現場では、金属を高速かつ強大な力で成形するプレス機が欠かせません。しかし、このプレス機に作業者の手や腕が挟まれる、あるいは金型ごと巻き込まれる事故は後を絶たず、重篤な障害が残ったり死亡したりする例も少なくありません。

人間の骨や筋肉ではプレス機の圧力に耐えられないため、手指や上肢の切断、開放骨折といった重大な外傷となりやすく、治療後も重度の後遺障害等級が認定される場合も少なくありません。

とりわけ製造業のうち金属加工、自動車部品、建材など単発プレス・順送プレスを扱うラインでは、段取り替え(機器や治具の交換・設定変更)や調整作業で安全カバーを一時的に取り外しをする場面も少なくなく、危険が潜在化しています。

 

会社・派遣先に対して損害賠償が認められる主なケース

労災保険は被災した労働者の最低限の救済制度ですが、プレス機事故の背景には①不十分な安全装置(二度打ち防止用の両手操作スイッチの無効化等)、②非常停止装置の位置不良、③作業標準書や教育の不足、④十分な人数配置を怠った無理な工程、など事業者側の安全配慮義務違反が散見されます。

これらが認められれば、安全配慮義務違反、709条(不法行為責任)、民法715条(使用者責任)に基づき会社や派遣の場合は派遣先の会社に対し逸失利益、慰謝料、介護費など数百万円から数千万円の賠償を請求できます。元請けがいる場合、元請けが下請けに具体的な指示を出して監督をしていれば、元請けに対しても損害賠償が認められる場合もあります。

 

労災給付だけで終わらせてしまう前に

「労災から休業補償給付や障害補償給付を受け取ったので終わり」とお考えの方が多くいらっしゃいます。しかし前述の安全配慮義務違反がある場合、会社への損害賠償請求を併せて行うことで生活再建のための金銭を確保できます。示談交渉は、そもそも支払いを拒否されたり、支払うという姿勢を見せても引き延ばされることもあり、損害額が適切に計算されなかったり、過失割合の過大主張による減額提示をされたりすることも珍しくありません。専門家の介入によって初めて適正額が示されるケースが多いと言えます。

 

当事務所で解決したプレス機事故の事例

ケース1 金型落下により右前腕部切断(後遺障害5級)

プレス機の段取り替え中、落下した金型に右腕が挟まれ上肢を失った30代男性について、会社側は過失7割を主張して1300万円を提示。安全体制の不備を立証し、過失を3割にとどめたうえで2500万円で示談。ご依頼からわずか2か月で解決しました。

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金型に挟まれて右前腕部が切断され、5級の後遺障害。2ヶ月で2500万円の示談金を獲得した事例

ケース2 プレス機で右手指3本切断(後遺障害8級)

大型プレス機に金型をセットする際の誤操作で右示・中・薬指を切断した40代男性の案件。会社は責任を全面否定していましたが、訴訟提起後、裁判所は安全配慮義務違反を前提に約1500万円の和解案を提示し、解決に至りました。

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プレス機で右手指3本を切断し、8級の後遺障害。安全配慮義務違反を認めさせ、約1500万円で和解

ケース3 7年前の事故でも1000万円の示談に(後遺障害12級)

20代男性が材料投入時に手袋が引っ掛かり示指を切断。会社は長年賠償に応じていませんでしたが、時効10年内に安全配慮義務違反を認めさせ、約1000万円で示談しました。

プレス機で右手指を切断し、12級の後遺障害認定。安全配慮義務違反の損害賠償金を獲得した事例

統計上の発生状況と行政指導

厚生労働省の統計でも、近年の挟まれ・巻き込まれ災害の中でプレス機関連が一定割合を占めると報告されています。とりわけ手動プレスや簡易改造された中古機に起因する事故が多いと言えます。それでも中小企業では費用負担を理由に設置・更新が遅れがちで、労働基準監督署が立入検査による是正勧告を出すことも少なくありません。こうした行政処分が出された場合には、企業側の過失がより明白となり、損害賠償請求の交渉を有利に進められる可能性が高まります。

 

請求までの具体的な流れ

(1)労災給付の申請・治療

(2)症状固定・後遺障害等級の認定

(3)労災資料の収集

(4)会社側への損害賠償請求書面送付

(5)示談交渉または訴訟提起

交渉段階では、事故状況や事故後に取った安全対策内容などから会社の安全配慮義務違反を正面から主張します。労基署が災害調査や個別指導・是正勧告がなされている場合はそのことも指摘します。訴訟に移行した場合には、ケースバイケースですが、現場で事故再現を行ったり、安全対策の実効性を具体的に示したり、必要に応じて作業主任者や設備保全担当者を証人申請したり等をします。

 

会社・保険会社と交渉する際のポイント

1.事故態様と機械構造の立証

ケースバイケースですが、安全装置・保護装置の有無、非常停止との距離、簡易な改造の有無などを写真・動画で保存し、災害調査を行っている場合は労働局から災害調査復命書を取り寄せたり、刑事事件になっている場合は刑事記録を取り寄せたりします。

2.労災資料早期確保

労災資料の保存期間が5年であるため、速やかな保有個人情報公開請求手続が必要です。

3.損害の算定

慰謝料、後遺障害慰謝料、休業損害、逸失利益を始め、介護が必要な場合は将来介護費や家屋改造費等も見落とさないことが重要です。

4.過失相殺への反論

危険作業を一人作業とした管理体制、安全装置を取り外した状態での作業を長年黙認した職場慣行など、会社側の重過失があれば過失相殺は0になったり大きく減縮されることがあります。

 

まとめ

プレス機事故は一瞬で人生を変えてしまう重大事故ですが、適切な主張立証によって被害者の生活再建に必要な賠償を得ることが可能です。当事務所はプレス機事故を始めとする機械による挟まれ・巻き込まれ事故の解決実績が豊富です。労災給付のみで終わらせず、まずはお気軽にご相談ください。